国会に提案中の臓器移植法改正案について、衆院厚生労働委員会は、今国会会期中の審議入りを決めた。
29日の同委員会理事会で与野党が合意した。来月13日に参考人質疑を開き、専門家の意見を聴取する。
脳死臓器移植は、法が施行された1997年以降、9年間で49例にとどまっている。改正案は臓器提供の機会拡大を目指しており、家族が同意すれば本人の意思が不明でも提供が可能になる「家族同意案」と、提供者の年齢を現行の15歳以上から12歳以上に引き下げる「年齢緩和案」の2案が提案されている。
(2006年11月29日18時46分 読売新聞)
生体肝移植の臓器提供者(ドナー)が自分の健康を管理するための「ドナー健康管理手帳」を、厚生労働省研究班(班長=里見進・東北大病院長)が作成し、全国約50の移植実施病院に配布する。
来月から提供者に手渡される見通し。
生体肝移植は提供者の肝臓の一部を摘出し、患者に移植する。患者の親、子ども、きょうだいが肝臓を提供することが多い。国内で毎年約500件、これまでに計3800件以上行われた。だが、日本肝移植研究会の報告書によると、39%の提供者が将来の健康に不安を感じている一方、26%が定期的な診察を受けていなかった。
提供者が受診しやすいよう作成された手帳は、文庫本ほどの大きさのB6判約40ページ。手術経過、術後の受診予定、肝機能など検査結果の記入欄がある。移植手術を実施した病院以外でも提供者を診察する医療機関の名前と連絡先も掲載され、移植病院が手術後に提供者に手渡す。約2000部作成された。
手帳の作成にあたった首都大学東京看護学科の清水準一・准教授は「日常生活の注意点なども盛り込んだ。提供者の不安を解消するために活用してほしい」と話している。
(2006年11月24日 読売新聞)
■提供の意思ないこと「言い出せない」
生体腎移植にあたり、ドナー(臓器提供者)候補者に無言の圧力がかかっているケースが夫婦間に多くみられることが、松江青葉クリニックの春木繁一院長(精神科)の調査で分かった。
春木院長は東京女子医大(東京都新宿区)の客員教授を今年3月まで務め、生体腎移植を受ける患者やドナーのカウンセリングを実施。平成13年までの十数年間、移植前に担当医から腎提供の意思確認の依頼のあった夫婦間移植の61件について分析した。
このうち17件では、腎提供の意思がないことを「言い出せない」といったケースや、提供を拒絶することで生じる家庭内暴力を恐れ、ドナーになることを半ば強制されていたケースもあったという。ドナー候補が妻のケースは13件、夫のケースは4件だった。
カウンセリングが始まったことで、病院に来なくなったケースも11件あった。いずれも、妻がドナー候補。これら計28件の移植は実施されなかったが、精神科医のカウンセリングがなければ実施される恐れもあった。春木院長は「夫婦間の生体移植の場合、提供したくないと言い出せないケースがある。専門家が面接を行う必要がある」と述べた。
(2006年11月28日 産経新聞)
動く心臓『第二の死』受け入れに苦悩
突然、脳死のドナー家族の立場になったときの思いは複雑だ。
滋賀県野洲市の重症心身障害児・者施設の園長で小児神経科医の杉本健郎(たてお)さん(58)は、二十一年前、長男剛亮君=当時(6つ)=を交通事故で亡くした経験を持つ。剛亮君は事故で脳死と判定され、心停止後に腎ドナーとなった。
杉本さんは職業柄「脳死は全脳の不可逆的な機能停止状態である」と理解はしていたが、脳死の息子を前にしては、何とか息を吹き返してくれと奇跡を願う一人の父親だった。
杉本さんは、あの日の手術室の光景を今も克明に覚えている。
「手術台には小さな剛亮が裸で寝ていた。体の色はいつもと同じ。脈も打っている。おちんちんも『まだ生きているぞ』と言わんばかりだった。人工呼吸器のチューブが外され、執刀医らは剛亮の心臓が止まるのを今か今かと待っていた。無理もない。当時の移植チームにとっては喜びの瞬間なんだ。腎提供を申し出たのは僕なのに、そんな姿に無性に腹が立った」
「『人工呼吸器を外せば五-二十分で心拍は停止します』と説明を受けていたが、剛亮の心臓は三十分たっても動いていた。『剛亮、息を吹き返すなら今だぞ』と心の中で叫びながら、いたたまれない気分になって『早く止まってくれ』と思ったりもした」
腎臓提供を思い立ったのは、脳死宣告から三日後。「全部灰になってしまうよりは、最期に起死回生のホームランを打たせてやろう」と考えた。「脳死ですと言われてすぐに人工呼吸器を外していたら、悲しくつらいままで終わっていた。脳死段階の二日間は、家族が剛亮の死を受け入れるために必要な時間だった」
「脳死は人の死」となったのは一九九二年の「脳死臨調」答申からだ。その議論でも死とするには反対意見が出た。心臓が動き、体も温かい「第二の死」を受け入れるには大きな苦悩が伴う。
臓器移植ネットワークの雁瀬美佐・広報普及啓発副部長は「意思表示カードを前に、考えた結果が『提供しません』でもいいんです。考える人が増えることが大切」と呼びかける。
杉本さんは、今は「移植を受けた人が今も生きていたらうれしい」と願う一方で、「臓器提供を美談にしないで」とも思う。「臓器を提供しない家族は悪者になってしまう。僕は提供することで息子を失う恐怖から逃れたかっただけ。社会的貢献なんて後から付けた理由」と言う。
「ドナー不足」という言葉にも違和感を覚えるという。「ドナーを豊富に出そうとすれば、脳死状態の人をみとる家族は『無駄な抵抗するな』と無言の責めを受け、理不尽な罪悪感に襲われる」と恐れるからだ。
一方で、国内での臓器移植を期待できない小児患者が海外渡航している。国内での脳死移植を増やそうと、今年三月に与党から二つの臓器移植法改正案が提出されている=メモ。
移植希望者の海外渡航を支援するNPO法人「日本移植支援協会」の高橋和子事務局長は「移植しか生きる道がない患者を、国はいつまで見殺しにするのか」と改正法成立を待ち望む。
だが杉本さんはあえて「移植海外渡航費は尊くて、脳死状態の維持は治療費のムダなのか?」と問いかける。「命の重さは同じはず。歩けず話せず働けず社会的価値は低い重度障害者でも、家族にとってはかけがえのない命をたくさん知っている。その究極が脳死。死にゆく命も救われる命も平等に尊重できる社会であってほしい」
<メモ>臓器移植法改正案 意思表示する書面の必要なことと年齢制限が移植推進の壁となっているとして、本人が生前に書面で拒否していない限り、本人(小児含む)の意思が不明でも家族の同意があれば臓器提供できる「同意規定緩和案」。親族への優先提供の意思表示も可能だ。もう一つは本人の意思と遺族の承諾を必要とする現行法の枠組みは維持しつつ、本人が意思表示できる年齢制限を「十五歳以上」から「十二歳以上」に引き下げる「年齢規定緩和案」。
(2006年11月16日 東京新聞)
10年前、英国留学中に急性劇症肝炎にかかり、脳死肝移植を受けて一命をとりとめた女性が今春、出産。このほどブログを開設して子育て日記の公開を始めた。免疫抑制剤を飲み続けなければならないなどの困難や不安を乗り越え「移植を受けたため、出産は無理とあきらめている女性たちに、私のケースを参考にしてもらえたら」と話している。【川鍋亮】
女性は兵庫県西宮市の主婦、今川真紀子さん(33)。大学4年生だった1996年4月、40度の高熱が出て意識不明となり、「移植をしなければ助からない」と医師に宣告された。英国では生体肝移植は行われておらず、日本から駆けつけた両親は脳死移植の受け入れを決意。入院3日目にドナー(臓器提供者)が見つかり、手術は成功した。
翌年1月に帰国。治療を受けながら、就職もした。2年前に拓さん(32)と結婚し、昨年6月に妊娠が判明した。
「無事に産めるのだろうか」と悩んだ。服用している免疫抑制剤の影響で、自身の体の抵抗力が低下しているうえに、生まれてくる赤ちゃんも抵抗力が弱かったり、発育不全になる恐れを医師から指摘された。「リスクはあるかもしれないが、頑張ってみよう」。寝込んだ時期もあったが4月6日、帝王切開で無事に男の子を出産した。脳死肝臓移植を受けた患者の出産は、日本では2例目だという。
駈(かける)ちゃんと名付けられた男の子は、現在7カ月。早くもつかまり立ちするなど、元気いっぱいに育っている様子をブログにつづっている。
「ドナーの方をはじめ多くの人のおかげで子どもを授かることができた。情報を発信することで、移植をした方々や家族に少しでも希望をもってもらえたら」と今川さんは話している。
◇
日本移植学会によると、国内の脳死肝移植は、今年8月末現在で32例、生体肝移植は約3800例に上るという。
今川真紀子さんのブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/prettyprince/
(2006年11月16日 毎日新聞)
腎がんなどの患者から腎臓を摘出して透析患者に移植する「病腎移植」が、波紋を広げている。移植を受けた患者ががんになる危険性や「使える腎臓なら元の人の体に戻すべきだ」との指摘がある一方で、愛媛県の宇和島徳洲会病院でそれなりの“成果”を上げ、患者に歓迎されているからだ。
ただし、ここで肝心なことを忘れてはならない。病腎移植はあくまでも緊急避難的措置であり、それを通常の医療行為として行わなければならないのは、ドナー(臓器提供者)が不足しているからだ。ドナー不足の解決を後回しにして病腎移植を論じるのは、本末転倒である。
ドナー不足は深刻だ。人工腎臓(透析装置)で自らの生命を維持している透析患者は毎年増え続け、現在26万人に上る。腎臓移植を受けない限り、透析治療から抜け出すことはできない。にもかかわらず、昨年、死体腎移植や脳死腎移植を受けることができた透析患者は、160人に過ぎない。
昨年、日本臓器移植ネットワークに登録された腎移植希望患者は、1万1450人である。これと比較しても、腎移植を受けられたのは、72人に1人という厳しい計算になる。
脳死移植の対象となる心臓や肝臓、肺、膵臓(すいぞう)も、腎臓と同様にドナーが足りない。平成9年の臓器移植法施行後に現れた脳死ドナーはたったの49人(年間平均5・4人)である。
人口100万人当たりの世界各国の脳死ドナー数(2004年)を見ても、スペインが「34・6人」と最も多く、日本は37番目の「0・75人」で、異常に少ないことが分かる。
ドナーを増やすにはまず、臓器移植法を改正することである。ドナー本人が生前に拒否していなければ、ドナーの遺族の同意で臓器の摘出ができるように改めるべきだ。ドナー本人の同意を厳しく求めるのは日本だけで、世界保健機関(WHO)基準も遺族の同意で臓器提供を可能にしている。
病腎移植だけではない。「臓器売買」も中国の「死刑囚ドナー」もすべてドナー不足に起因する。
臓器移植法改正案の成立が遅れれば遅れるほど、ドナー不足はさらに深刻化する。この国会で改正案の審議を早急に始めるべきではないか。
(産経新聞)
病気で摘出した腎臓の移植を続けていた宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の万波誠医師(66)は3日までに、共同通信のインタビューに応じ、病気腎移植を公表しなかったのは「あの病院はがんの腎臓を移植するという話が独り歩きするのを恐れた」と話した。
5日に初公判を控え、病気腎移植が表面化する契機になった臓器売買事件については「巻き込まれたが、被告らに恨みはない」と述べた。
万波医師によると、前任の市立宇和島病院で1990年ごろに初めて手掛けた病気腎移植は腎がんだった。80年代以降、診断法の進歩で小さながんも発見できるようになり、がんを切除して腎臓を残す考え方が広まった。それでも摘出を望む患者がいることから、移植への利用を思い付いたという。
万波医師は「4センチ以下のがんは取って腎臓を本人に残しても問題ないという臨床的な根拠がある」と説明。経験上も、がんが再発したケースはないとした。医学界の理解を得てから実行に移すという考えはなかったという。
移植を受ける患者は免疫抑制剤を使うためがんになりやすいとの指摘もあるが、万波医師は「人間の体には異物を排除する力がある。免疫抑制剤を使ってもがん細胞は殺されるのでは、と考えた」と反論した。
どの患者に移植するかは、患者の生活や事情を考慮して自分で判断していたと説明した。
また、国の規制がなければ病気腎移植を今後も続けたいとの考えを示したが、禁止されれば「無視してすることはできない」と話した。
一方、宇和島徳洲会病院が11月26日、病気腎移植を受けた患者のうち2人は病名を知らされていなかったと発表したことに対し、万波医師は「それは絶対にない。本人に嫌というほど話した」と否定した。
(共同)
(2006年12月03日 17時37分)
宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の万波誠・泌尿器科部長(66)らによる「病気腎」移植問題で、日本移植学会と日本泌尿器科学会は、移植に関与した10病院すべてについて、摘出手術と移植手術の医学的妥当性を調査する方針を決めた。早ければ年内にも調査結果をまとめる。すでに患者の病状や手術内容を明らかにするための質問票を作成しており、近くカルテの閲覧などを含む本格的な調査に入る。
日本移植学会の田中紘一理事長ら複数の学会幹部によると、調査は学会が派遣する専門医を中心に、カルテや看護記録、検査結果を閲覧したり、手術にかかわった医師や必要な場合は患者にも聞き取りをしたりして、質問票の回答欄を埋める方法を取る。
そのうえで回答結果を分析し、腎臓摘出手術の場合は、「摘出の必要はなく、明らかに医学的に妥当でない」というケースから「摘出にやむを得ない事情があり、議論の余地はある」というケースまで5段階程度で評価。調査結果としてまとめるとしている。
病気腎移植に関与した10病院のうち、万波医師を中心とした通称「瀬戸内グループ」の移植医が勤務し、腎臓の摘出や移植手術を実施するなどしていた宇和島徳洲会病院と同市立宇和島病院、呉共済病院(広島県呉市)、香川労災病院(香川県丸亀市)の4カ所については、各病院が設置した調査委員会に学会側が専門医を派遣。摘出の是非などを慎重に調べる。
一方、摘出した腎臓を移植用に送っていた6病院のうち、岡山、広島両県にある5カ所は、厚生労働省が学会側に協力を依頼して独自に設置した調査班が担当する。
(2006年12月03日 asahi.com)
宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)などで発覚した病気の腎臓の移植問題で執刀した万波誠(まんなみまこと)・同病院泌尿器科部長(66)が28日夜、読売新聞の単独取材に応じ、「苦しんでいる患者のために始めたが、いつも(失敗の)不安を抱えていた。意気揚々とやっているわけではない」と胸の内を語った。
国や学会は現在、病気腎の摘出と移植の妥当性を調べており、万波医師は国などの結論が出るまで病気腎移植を自粛している。「国や学会が禁止したら絶対やらない」と強調しつつ、その結論前に患者が病気腎移植を求めた場合は「患者が本当に望むのなら」と再開に含みを持たせた。
1例目の病気腎移植は、市立宇和島病院で1990年前後に行ったがんの腎臓だったと説明。「既存の移植の延長で、実験的医療ではないと思う」と持論を展開。動物実験なしに実施したことを明らかにした。
病気腎移植を公表しなかったのは「がんの腎臓を移植したら世間にどう言われるかわからないという恐れがあったから」と批判を気にしていたことを認めた。
宇和島徳洲会病院の調査は、移植腎の具体的な病名を患者2人に説明していなかったとしているが、万波医師は「徳洲会病院での移植手術はすべて覚えており、全員に嫌と言うほど説明した」と反論。「患者が(説明を)忘れてしまったか、詳細に聞いていないかのどちらかだ」と語った。
(2006年11月30日 読売新聞)
病気腎移植について話す万波誠医師(愛媛県宇和島市で) 病気腎移植などが発覚した宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の泌尿器科部長、万波誠医師(66)が28日夜、読売新聞の単独取材に応じた。「病気腎を使うことは疑問に思っている」「意気揚々とやっているわけではない」と語り、疑問と不安を抱きつつ、目の前の患者を助ける手段として病気腎の利用を重ねてきたことを明らかにした。
万波医師によると、最初の病気腎移植は1990年前後、前任の市立宇和島病院で、小さいがんのあった腎臓を全くの他人に移植した。先例はなく、動物実験もなしで実施したという。
公表しなかった理由は「細々と誰にも知らせずにやろうと思っていた。がんの腎臓を移植したら世間から何と言われるかという恐れもあった」と説明。移植の経緯や術後経過のデータはまとめていないという。
また移植患者の選択について「たまたま病気腎が出てきた時に患者に話す」とし、その場の自分の判断で決めてきたことを認めた。
◆一問一答
万波誠医師との一問一答は次の通り。
――なぜ病気腎移植を始めたのか。
「移植も2度、3度となるとドナー(提供者)のなり手もいなくなる。透析に戻ったら仕事もできず、生活できなくなる人が何人もいた。何とかして移植してやりたいと思った」
――最初のケースは。
「小さい腎臓がんだったと思う。移植のために取ったわけでなく、がん(の腎臓)はいらないから取ってくれと言われた。90年代には良い免疫抑制剤が出て腎移植の成績が良くなり、赤の他人でもうまくいくようになった。『うまくいかなかったら許して下さいよ』と言ってやったと思う」
――事前に動物実験は。
「していない。切除すれば、がんがないのと同じだから、人体実験では絶対ない。腎臓が働かなくても、すぐ取り出すか、透析に戻してあげればいい。悲壮感はなかったし、移植で患者の人生が変わるのでは、というほうが大きかった」
――広く知らせようという考えはなかったか。
「宣伝する気は全くなかった。(移植に使う病気の)腎臓自体が少ない。いつもこれが最後と思っていた。がんの腎臓を移植したら世間にどう言われるかという恐れもあった」
――ネフローゼ患者の両方の腎臓を摘出したのは、海外で症例があったのか。
「両方を摘出する場合があると日本の医師から聞いていた。実際に移植すると腎機能もいい。調べた限りでは、国内でも海外でも症例はなかった。実験的と言われても仕方ないが、そこに患者がいたからやった」
――移植患者を恣意(しい)的に選ぶのは問題では。
「私は今でも病気腎を使うことを疑問に思っており、(待機患者に)順番をつける段階ではない。たまたま(病気腎が)出てきた時に患者と話す。患者が本当に困っていて、私を信用して、失敗しても許してくれる、といった状況を判断して踏み切る。がんの場合、再発したらどうしようという不安もある。意気揚々とやっているわけではない」
――手術後の問題は。
「感染症で亡くなった人はいるが、がんやネフローゼが再発して透析に戻ったとか、動脈瘤(りゅう)の血管縫合がうまくいかずに亡くなったといった例はない」
(2006年11月30日 読売新聞)
宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の万波誠医師が執刀した腎臓移植手術の疑惑が発端となり、臓器移植の在り方をめぐって議論が続いている。腎移植を希望する人は多い一方で、臓器移植に関する医療不信が進む恐れもあり、臨床ルールを早急に決定すべきだ。
深刻なドナー提供者不足
同病院でこの九月、腎移植の不正が発覚し、患者が「臓器移植法」で禁じられている利益供与による臓器移植違反で逮捕された。この時の執刀医が万波医師で、同医師は腎臓提供者の身元確認や適性を十分に判定せず、手術に及んだのではないかという疑いも持たれている。
この問題を契機に日本移植学会が調査したところ、生体腎移植を実施する施設十一カ所で倫理委員会が設置されていなかったことが判明、同学会はこれらの施設で直ちに同委員会を設けるよう求めている。ドナーとなる患者本人の同意や、移植される患者の意思の確認が確実に行われるとともに、臓器摘出の妥当性が十分に検討されるような場が必要である。この点からも万波医師の医療行為を追及すべきだ。
一方、腎移植は正当な医療行為であり、それを待ち望む患者は年々多くなっている。それにもかかわらず、ドナー提供者は少ないという現実がある。
わが国で腎移植が適当とみられる透析患者は現在二十六万人に上り、毎年一万人ずつ増えているが、移植の恩恵にあずかるのは年間百五十人足らず。ドナーが欧米諸国に比べはるかに少ないのがその理由だ。
腎移植には、家族、親類から片方の腎臓をもらう生体腎移植と、亡くなった人からもらう死体腎移植がある。生体腎移植では当然、限られた人しかチャンスがないわけで、死体腎の提供について広く啓蒙する必要があろう。死体腎移植は他の臓器移植に比べても、その克服すべき倫理的問題の壁は低いと思われる。現在、透析治療にかかる医療費は年間一兆円で、医療費削減という面からも、移植医療に期待が掛かっている。
また、臓器移植法では、角膜、腎臓以外は生前に承諾がなければドナーの対象にはなり得ないことになっているが、他の臓器についても生前に本人の拒否の表示がなければ、家族からのドナーの申し出に対して検討する余地があるのではないか。
さらに今回、万波医師の執刀で問題になっているのは、病気で機能しなくなり廃棄される予定だった「病腎」を使用した移植についてだ。同医師が手掛けた六百件ほどの腎移植の手術で、かなりの数の病腎が使われていたようで、この中には、ネフローゼや腎臓がん患者から摘出した腎臓もあった。病腎の移植基準についての判断は、研究者や臨床医の間でまちまちで意見が分かれている。
例えば、がんの腎臓の移植でも病変部を取り除けば医学的に見て移植に使用できるという見解もある。ただ、がんの部位やどの程度の大きさまでなら手術可能かについては、医療現場の裁量によっているのが現状だ。昨今の急進的な医療技術の発展に対し、腎臓移植の基準の確定が遅れていると言わざるを得ない。
医療の国際化に課題
脳死・死体腎移植が最も多い米国では、年間約一万三千人が移植を受けており、移植待機者は平均三年で移植が受けられるという。国の文化が違い必ずしも参考にならないが、医療の国際化について、わが国の課題は大きいことを肝に銘ずべきだ。
(世界日報)
設立総会を開いた後、記者会見する「移植への理解を求める会」の役員ら=26日午後3時55分ごろ、宇和島市
宇和島徳洲会病院の万波誠医師らによる病気腎移植問題で、万波医師を支援する移植患者らでつくる「移植への理解を求める会」の設立総会が二十六日、宇和島市内で開かれた。代表世話人に選ばれた移植患者で水産会社経営の向田陽二さん(48)=南宇和郡愛南町=が「救える命がある以上、病気腎移植の道を閉ざしてはいけない」などと訴えた。
県内外の患者や家族、一般市民ら約百二十人が出席。万波医師の元勤務先、市立宇和島病院の近藤俊文名誉院長(74)が「移植医療への理解を深めるため、原点に帰って脳死臨調、臓器移植法をもう一回考えないといけない。日本の移植医療が健全な形で伸びていくことを望む」とあいさつ。
役員として顧問に近藤名誉院長を選出。幹事にえひめ移植者の会の野村正良会長(57)、元移植コーディネーターの仲田篤敏さん(46)ら七人を選んだ。
総会後の会見で、仲田幹事は個人の意見とした上で「今回の万波医師の病気腎移植では、患者選定とインフォームドコンセント(説明と同意)の中の『説明』の部分に問題があった。カリスマ的な医師の場合、説明がおざなりになりがちなので周囲のフォローが必要だと思う」と述べた。
同会は二十七日にも、柳沢伯夫厚労相らに「今後とも万波医師らが移植医療を続けられるよう配慮を」などとする要望書を郵送。年明け以降、講演会やシンポジウムなどを開く方針。
(愛媛新聞社)
「病気腎」の移植を重ねていた宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の万波誠・泌尿器科部長(66)を支援する「移植への理解を求める会」(向田陽二代表世話人)の設立総会が26日、同市内で開かれた。移植患者ら約700人が会員となったことが発表され、病気腎移植を前向きに検討するよう求める要望書を、27日に厚生労働省や日本移植学会などに送る方針を決めた。
総会には、万波医師から腎移植手術を受けた患者ら約120人が出席。病気腎移植について、公平性や公開性など改善すべき点を改めたうえで、正当な医療行為として認めるよう国などに申し入れることを確認した。
(2006年11月27日 asahi.com)
患者らの聞き取り報告
臓器売買や病気腎移植の舞台となった宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の第2回調査委員会が25日、東京のホテルで開かれた。病院側は、臓器提供者(ドナー)と移植患者延べ15人に聞き取り調査した結果を報告し、「1人を除いて説明・同意におおむね問題はなかった」としたが、調査方法のずさんさを批判する意見が外部委員から相次ぎ、手続き面、医学面の二つの専門委員会を早期に発足させることになった。
出席した委員らによると、聞き取りは、徳洲会側が依頼した弁護士が予備調査として実施。同病院で行われた病気腎移植11件のうち、院内で摘出を受けた5人と、移植を受けた10人(1人は複数回)から手術の経緯、説明と同意の状況、術後の経過などを尋ねた。
ほとんどは口頭で説明と同意が行われていたが、移植を受けた患者の1人は十分な説明がなかった模様で、「病気腎とわかったので素直に喜べない」と納得できない様子だったという。
また、外国籍などの事情で続き柄が不明だった他の生体腎移植5件のうち、3件は親族間と判明したが、残り2件は調査を継続するという報告があった。
しかし調査委には、症例一覧表の配布や聞き取り項目の説明もなく、外部委員は「医学知識を踏まえた質問をしておらず、うのみにできない」と指摘した。
調査委は院内8人、院外10人だが、院外のうち6人は徳洲会の関係者と顧問弁護士。医学面の専門委員には、日本移植学会と日本泌尿器科学会が各1人の派遣を決めているが、この点でも「人数が足りないのでは」という意見が出たという。
貞島博通院長は「詳しくは26日に記者会見して説明する」とだけ話した。
(2006年11月26日 読売新聞)
厚生労働省と愛媛社会保険事務局、県は二十一日、生体腎移植の診療報酬を不当に請求した疑いなどがあるとして、臓器売買事件や病気腎移植問題の舞台となった宇和島市の宇和島徳洲会病院(貞島博通院長)を共同で監査した。三者共同による同病院への立ち入りは十月二十四日以来、二度目。この間に判明した病気腎移植の経緯についても病院側から事情を聴き、報酬請求が妥当かどうかの調べを進めたとみられる。
健康保険法などに基づく監査は、保険医療機関の診療内容や診療報酬請求に不正または著しい不当の疑いがある場合などに実施。関係者によると、愛媛社保局などは同病院が行った七十八件の生体腎移植の診療報酬を返還させることを視野に調査を進めており、監査の結果、不正・不当請求の事実が認められた場合、行政上の措置を検討する方針という。行政上の措置には保険医療機関の指定や保険医の登録の取り消し、戒告、注意がある。
臓器売買事件を機に同病院では、患者らへの文書による説明を定めた診療報酬請求の施設基準を満たしていなかった事実が判明。さらに七十八件のうち十一件は腎疾患患者から摘出した病気腎を移植しており、生体腎移植では健康な腎臓を前提としている診療報酬制度を逸脱している疑いが出ている。監査では、施設基準の適否とともに病気腎移植や報酬請求の経緯なども事実確認し、請求の妥当性について判断する。
また、通常の生体腎移植ではドナー(臓器提供者)の手術料などは移植患者の健康保険で賄われ、厚労省は報酬請求の際、移植患者のレセプト(診療報酬明細書)にドナーのレセプトを添付することを通知で定めているが、同病院はこれまでの取材に対し「(病気腎の)摘出と移植を院内で行った場合、請求は別々。他の病院から持ち込まれた場合は移植手術分だけの請求」と説明。社会保険庁関係者によると、実際にドナーのレセプト添付がないケースを確認しており、請求要件を欠く可能性が出ているという。
宇和島徳洲会病院の大湾朝明事務長は監査について「ノーコメント」とした。
(愛媛新聞社)
病気の腎臓を使った移植を重ねていた宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の万波誠医師(66)らが、前勤務先の同市立宇和島病院で6年前、親族からの生体腎移植を受けたネフローゼ症候群の患者から2個の腎臓を摘出し、同時に2人の腎不全患者に移植する「ドミノ病気腎移植」を実施していたことがわかった。生体肝移植などで用いられるドミノ移植を腎臓に適用したのは、国内では極めて異例。複数の専門医は、その有効性に疑問を投げかけている。
市立宇和島病院などによると、00年8月、当時21歳だった難治性ネフローゼの男性患者が再発を繰り返し、薬物療法に難色を示したため、男性の兄を臓器提供者(ドナー)にして生体腎移植を実施。摘出された二つの腎臓はその日のうちに、いずれも腎不全を患っていた愛媛県内の50代男性と高知県内の50代女性に移植された。
3人の移植手術はすべて万波医師が執刀し、ほかに同病院の医師らが立ち会った。術後2年が過ぎた時点で3人とも経過は良好だったという。かかわった医師の一人は「米国で既に、病気腎を使って同様のドミノ移植が行われていたのを知っていた。患者の状態も良かった」と話す。この移植については、02年に高知市で開かれた研究会で報告していた。
一方、ネフローゼ患者の移植については、「さまざまな治療薬を使って体内に残すのが通常の選択」など、否定的な意見が多い。国内で初めて成人間の生体肝移植を執刀した土雪彦・広島大名誉教授は「腎臓のドミノ移植は聞いたことがない。腎臓と肝臓とでは緊急性が違う。肝臓には機能を代替する機械がないため、問題のある肝臓でも移植するが、腎臓の場合は安全に透析治療ができるのだから、ドミノ移植をする論理は成り立たない」と指摘する。
(2006年11月25日 asahi.com)
宇和島徳洲会病院の監査に入る愛媛社会保険事務局関係者ら=22日午前9時半ごろ、宇和島市住吉町2丁目
宇和島市の宇和島徳洲会病院や市立宇和島病院などで発覚した病気腎移植が、保険診療での実験的な医療行為の禁止などを定めた厚生労働省令の療養担当規則に違反する可能性があることが二十二日までに、関係者の話で分かった。同省と愛媛社会保険事務局、県は同日も、前日に引き続き宇和島徳洲会病院の共同監査を実施。診療内容や診療報酬請求をめぐる規則違反の疑いについて詰めの調べを進めているもようだ。
療養担当規則は保険医療機関と保険医が順守すべき基準を定め、特定の病院を除いて「特殊な療法または新しい療法」を原則禁止している。
厚労省などによると、健康保険が適用されるのは有効性や安全性が確認された診療で、実験的な手術などは「特殊療法等」に該当。保険医療機関には「妥当適切」な診療も義務付けている。
腎疾患患者からの腎摘出や病気腎の移植について同省医療指導監査室は「規則に違反するかどうかは、事実関係を確認し、個別具体的に判断する」としている。
病気腎移植をめぐっては、宇和島徳洲会病院泌尿器科部長の万波誠医師(66)が同病院で十一件実施。前任の市立宇和島病院でも十―十五件実施したと説明している。日本移植学会幹部らから「現代医学の水準、常識を無視している」との批判が出ているが、万波医師は会見などで、患者や家族には十分説明し死亡例はないと強調。「生体、死体腎移植に続く第三の道として、このような医療行為があってもいいのではないか」などと訴えている。
療養担当規則は保険医療機関に、診療報酬請求でも適正な手続きを義務付け。宇和島徳洲会病院では、患者らへの文書による説明を定めた報酬請求の施設基準を満たしていなかった事実が明らかになっている。
社会保険庁関係者によると、監査終了後、レセプト(診療報酬明細書)やカルテ、聞き取り調査結果などを精査し、違反が確認されれば診療報酬返還を求めるほか、保険医療機関の指定や保険医の登録の取り消し、戒告、注意を内容とする行政上の措置を検討する方針という。
一方、愛媛社保局などは市立宇和島病院の病気腎移植についても事実確認が必要としており、職員が二十二日、同病院を訪れ、カルテの保存などを求めた。
(2006年11月24日 愛媛新聞)