愛媛県宇和島市の宇和島徳洲会病院で、病気のため摘出した腎臓が別の患者に移植されるという事態は、倫理上の問題が大きいうえ、臓器提供の自発性といった移植医療の根幹を揺るがしかねない行為だけに、関係者の批判は強い。移植医療の枠組みの外で発生した問題を検証する。
「病気の腎臓でもいいかと患者に説明して了承を得た」。今回の移植について、同病院の万波誠医師(66)はこう説明する。しかし、移植を受けた患者10人からは、一人も文書による同意を得ておらず、移植後に危険性があるというマイナス面の説明を、レシピエント(移植を受けた患者)にきちんとしていなかった可能性がある。
病気の腎臓を移植に用いることは、レシピエントに高い危険性をもたらす。腎臓に限らず、臓器移植を受けた患者は、拒絶反応を防ぐために免疫抑制剤を服用する必要があるからだ。体の免疫力の低下によって、さまざまな感染症などにかかりやすくなるうえ、腎臓の負担も増す。
特に、がんの腎臓を移植するケースが今回11件中3件であったが、これは危険が大きい。厚生労働省が示すドナー(臓器提供者)の適応基準では、ドナーが対象臓器以外のがんであっても、移植した臓器ががんになる恐れがあるため、原則として除外されている。
日本臓器移植ネットワーク西日本支部長の園田孝夫・大阪大名誉教授は「がんの部位を取り除いても、血液中にがん細胞が残っている場合もある。免疫抑制剤を使うのでがんが再発しやすくなる」と指摘する。
また仮に説明していたとしても、患者が同意すれば、医師はがんなどのため摘出した腎臓を移植してよいのだろうか。
腎移植を待つ患者は「どんな腎臓でも、のどから手が出るほどほしい」(大阪府内の泌尿器科医)という心理状態だ。危険性を十分認識して正常な判断をするのが難しい人や、危険を伴っても今よりましだと信じて移植を望む人がいても不思議ではない。むしろ、患者の負うリスクを考慮して自制を求めることが、医師の役割でもある。
◇摘出必要だったのか?
今回の11件のうち、岡山県内の病院で3件を実施したのは、万波医師の弟の廉介(れんすけ)医師(60)だった。廉介医師は「もし使えるような腎臓だったら、透析をしていて欲しがっている人にあげてもいいか」などと摘出患者に持ち掛けたと説明している。
臓器移植法は、基本理念で「移植に使用されるための臓器の提供は、任意にされたものでなければならない」と明記しており、廉介医師の行為がその趣旨に反する可能性も否定できない。
宇和島徳洲会病院によると、ドナーの疾患は▽腎がん3件▽尿管狭さく3件▽動脈瘤(りゅう)2件▽良性腫瘍(しゅよう)2件▽ネフローゼ1件。摘出したということは、その臓器を体内から除去した方がよいと判断したことになるが、そもそも摘出までする必要があったのかどうかについて、複数の医師が疑問を投げかける。
園田名誉教授は「尿管狭さくなら、普通は狭さくした部分の剥離(はくり)などをすれば、摘出しなくても治療は可能。動脈瘤も、こぶの部分だけを切除すればいい」と指摘する。ある大学病院の泌尿器科助教授も「腎臓の機能が正常なのに摘出する病態は極めてまれ。腎臓を取る必要がない患者から摘出したということになる。医師が移植当事者の間に入ることが問題で、摘出が誘導されなかったか調べないといけない。同じ泌尿器科医として、本当に情けない」と話した。
廉介医師自身も「(元の患者に)戻したらいいというのはもっともな意見」としながら「僕はそういう技量は持っていないし、面倒で失敗もある」と打ち明けた。
一方、2件の摘出手術をした香川県内の病院の勤務医は「弁護士に確認したが、法的に問題はないとのことで、倫理委員会は開いていない。患者に同意書も書いてもらっている」と説明する。
◇専門家が科学的に検証を
脳死や心臓死後の臓器提供は、臓器移植法や関連法令で、その手続きが厳しく決められている。同法で「移植術を受ける機会は、公平に与えられるよう配慮されなければならない」と規定され、ドナー自身や家族、医療機関がレシピエントを任意に決めることはできない。「日本臓器移植ネットワーク」が、同法に基づいて厚生労働相からあっせん業の許可を受けた国内唯一の組織で、重症度や血液型などからレシピエントを決定する。
一方、生体臓器移植は「臓器売買の禁止」を除いて具体的な法規制はなく、医療現場では日本移植学会の倫理指針に基づいて進められている。ドナーは原則として指針で定める親族のうち、自発的な提供意思がある人に限られ、第三者があっせんすることはない。親族以外の場合は、院内の倫理委員会の承認に加え、同学会倫理委員会の審議を必要とし、妥当性をチェックしている。
今回明らかになった「病気のため摘出された腎臓」の移植は、親族以外の場合に当たるが、指針の原則は一切守られていなかった。病院の管理者が知らないまま、主治医ら現場の判断だけで提供されるなど、医師があっせん行為をしていたとも言える。このため、患者の移植機会の増加を望む患者団体からも、移植機会の公平性などの点で批判的な意見が出ている。
米本昌平・科学技術文明研究所長は「病気のため摘出した腎臓を移植することが治療といえるのか、まずは専門家が科学的に検証すべきだ。その上で倫理的な問題も明らかになった場合は、法による規制なども検討していくべきだろう」と話している。
(毎日新聞) - 11月5日
投稿者:1-12-bike 日時:2006年11月05日 22:03 | パーマリンク