<疾患腎移植>執刀医師「倫理より患者」と主張

臓器売買事件があった愛媛県宇和島市の宇和島徳洲会病院で、病気のために摘出された腎臓を別の患者に移植していた問題で、売買事件の手術を担当した泌尿器科部長の万波誠医師(66)が取材に「倫理を持ち出されるが、私には患者の方が大事。患者の了解も得ている」と述べ、手術に問題はなかったとの認識を示した。しかし、同病院では当時、倫理委員会がなく、臓器を摘出した病院でも11件のうち少なくとも5件は倫理委員会に、移植をはかっていないことも新たに分かった。万波医師は11件のほとんどが親族以外への移植だったことを認めたが、事件の発覚当初は「執刀したのは親族間の移植だけ」という内容の話をしていた。

一方、この5件のうち、2件では摘出患者の同意書がなかったことも分かった。摘出手術は岡山、香川県内で行われ、医師2人が担当した。1人は万波医師の実弟で、「患者への説明は十分行い、了承は得ている」としている。別の医師は「患者と家族から同意の文書をもらった。倫理委員会は法的に問題がないので開かなかった」と説明している。
5件で腎臓を提供した患者は50~70代で、腎がんなどを患っていた。手術後の経過はいずれも良好という。
同病院は04年4月のオープン以来、78件の生体腎移植を行った。うち66件は親族間の移植手術だったとしたが、このうち5件は「外国籍であるなどの事情」のため本当に腎臓の摘出患者と移植患者が親族関係であるかを調査中としており、さらに親族外の移植が増える可能性もある。

■解説 移植の前提揺るがす事態に
移植医療はレシピエント(移植を受ける人)の生命を守るために、ドナー(臓器提供者)という第三者を必要とする特殊な医療だ。そのため、ドナーの自発性や移植機会の公平性などが最も重要となる。病気を理由に摘出された腎臓が、宇和島徳洲会病院で他の患者に移植されていたことは移植医療の大前提を揺るがす事態といえる。
臓器の摘出は患者の身体に大きなダメージを与える。慎重な判断が必要だが、今回の11例に関しては、移植できる臓器を本当に摘出する必要があったのかと、専門医から疑問が出ている。また、ドナーとなった患者は自分の治療のために摘出に同意したのであり、その後、他の患者へ移植することを納得したからといって、もともと自発的な提供意思があったかどうかは分からない。また「使える臓器を使う」という発想は、臓器の商品化を認めることになりかねない。
一方、レシピエント決定の経緯も不透明だ。脳死や心臓死後に提供された臓器は、公平公正を期すため、臓器移植法のもとで、日本臓器移植ネットワークが重症度や血液型、待機日数などからレシピエントを選ぶ。
今回の移植は生体移植だが、ドナーとはつながりのない第三者に移植されている可能性があり、脳死などでの移植に形態は近い。だが、宇和島徳洲会病院には10月まで倫理委員会はなく、医師の裁量でレシピエントが決められたかもしれない。また、病気で摘出された臓器を移植されたレシピエントのリスクを、同病院や関係した医師らがどこまで配慮したか、疑問が残る。
同病院で腎臓移植を受け、命を救われた患者がいたことは否定できない事実だ。しかし、移植の原則を無視して不透明な医療を進めてきたことは見過ごせない。日本の移植医療への信頼を揺るがし、その普及を妨げることにもなりかねない。
(毎日新聞) - 11月4日

投稿者:1-12-bike 日時:2006年11月05日 21:55 | パーマリンク

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