臓器売買初摘発 ドナー本人確認に甘さ

担当医、「親族」鵜呑み…ルールの確立急務

愛媛県の宇和島徳洲会病院で行われた腎移植を巡る臓器売買事件で、臓器提供者(ドナー)の本人確認が徹底されていない現状が明らかになった。臓器移植法は売買を禁じているが、生体間の移植そのものは法的規制の対象になっていない。

日本では脳死や心停止後の臓器提供が不足し、腎臓や肝臓では生体からの移植が主流だけに、親族、非親族にかかわらず、法規制を含めたルールの確立が急務だ。(大阪科学部 秦重信、科学部 冨浪俊一)

脳死移植や心停止後の臓器移植は、臓器移植法で脳死判定の基準や実施の手順が定められている。臓器の斡旋(あっせん)事業には国の許可が必要で、現在は日本臓器移植ネットワークだけが認められている。提供臓器は、親族優先ではなく、居住地域や医学的適合性、待機期間などに基づき、公平に配分することになっている。

金銭授受が起きないよう、提供者と移植を受けた患者の個人情報は、相互に伝えないという原則もある。

一方、健康な人から臓器を取り出す生体間移植は、売買禁止と無許可の斡旋の禁止を除いて、法律に定めがなく、日本移植学会の倫理指針があるだけだ。

この指針では、提供者を患者の親族に限るよう定めている。親族の範囲は、6親等以内の血族と3親等以内の姻族だ。どうしても親族以外の提供が必要な場合は、病院の倫理委員会で個別に承認を得たうえで、移植学会にも意見を求めることになっている。

しかし今回のケースでは、担当医が、関係者の説明を鵜呑(うの)みにして「親族」として手術(宇和島徳洲会病院の貞島博通院長の会見)。そのうえ同病院には倫理委員会がなかった。

しかも指針は、本人確認の具体的な方法に言及しておらず、医療機関の判断に任されている。

他の病院では、本人確認をどうしているのか。偽装を見破るのは難しいのか。

高原史郎・大阪大泌尿器科教授は「親族かどうかはHLA(白血球型)の検査でわかる。兄弟間では4分の1くらいの割合で型が一致しないことがあるが、その場合は戸籍の提出を求める」と話す。

また、「すでに腎臓移植は保険適用になっており、保険証でも本人確認はできる」と指摘。宇和島徳洲会病院のチェック体制に疑問を投げかける。

腎移植の場合、患者は人工透析で命をつなぐことができ、緊急性は低い。今回のケースで、そうした説明や話し合いが、どれだけ行われたのだろうか。

たとえ本当の親族からの臓器提供でも、陰で提供の強制や金銭授受があれば、大きな問題だ。そうしたことがないか、話し合いの過程で見極める必要がある。親族というだけで倫理審査の対象から外している学会の指針は、そのままでよいのか再検討が求められる。学会側も「調査委員会を設け事実関係を詳しく調べる」(田中紘一理事長)と、真相究明に乗り出す。

事件の底流には、生体移植の審査が甘い現状があるとし、厳しいルールを求める声もある。米本昌平・科学技術文明研究所長は「死体からの腎提供が不足し、臓器売買の危険性は世界的に指摘されていたが、国内では非先進国への移植ツアーの是非を含めてあまり議論されなかった」と指摘。その上で「臓器移植法改正で生体移植に規制をかけ、臓器提供できる人の範囲や自発性の担保など、ルールをきちんと定めるべきだ」と話している。


背景に腎臓不足

なぜ臓器売買までして移植を行うのか。背景には深刻な臓器不足がある。

脳死移植・心停止後移植の仲介を行う日本臓器移植ネットワークのまとめでは、8月31日現在、腎臓の移植を希望する登録患者は1万1564人。一方、移植は、日本移植学会によると、1983年以降、毎年500件以上行われている。最新統計の05年は834件だった。

しかし、その内訳は、生体移植が大半。94年から生体移植は増加傾向にあり、04年は約8割にあたる727件だった。生体移植のほとんどが親子間で、最近は夫婦間も増えている。

一方で、89年には年間261件もあった心停止後移植は97年の臓器移植法施行以降、減少傾向にあり、02年には112件に落ち込んだ。移植専門医の間では「脳死でなければ提供できないと誤解する病院関係者や家族がいた」との見方があった。脳死移植も年間4~16件とごくわずかだ。

糖尿病患者の増加で合併症の腎症を患い、慢性腎不全に陥って人工透析を行う患者は04年末で約24万人。これらの患者は腎臓移植を受けないと完治しない。

移植希望者数と臓器提供数には大きな差があり、移植ネットに登録してもなかなか順番が回ってこないのが実情だ。仮に親族が臓器提供を承諾しても、医学的理由で移植が実現しない場合もある。

腎移植
親、子供、配偶者などが臓器提供する生体移植、心停止後に提供する移植、脳死者からの脳死移植がある。腎臓は保存できる期間が長く、心停止後の摘出でも移植に使える。臓器移植法施行以前から角膜・腎臓移植法で心停止後の提供が認められていた。


(2006年10月2日 読売新聞)

投稿者:1-12-bike 日時:2006年10月03日 00:13 | パーマリンク

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたとがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)