愛媛県宇和島市の宇和島徳洲会病院で行われた生体腎移植にからむ臓器売買事件で、移植手術を担当した泌尿器科部長の万波(まんなみ)誠医師(65)は2日、記者会見し、これまでに実施した82例の生体腎移植すべてで、臓器提供者や移植希望者への説明や同意を口頭だけで行い、文書による同意がないことを明らかにした。
臓器提供者や移植希望者が納得して手術を受けたかどうか、記録で検証できない状態。4日に83例目の生体腎移植手術が予定されており、文書での同意について問われた貞島博通院長は「早急に対応する。できない場合、手術の延期もあり得る」としたが、万波医師は「必要ない」と主張している。
大きな手術や検査などでは通常、事前に患者からインフォームド・コンセント(十分な情報提供に基づく同意)を得て、説明内容のわかる文書を作る。
(読売新聞) - 10月2日
愛媛県宇和島市の宇和島徳洲会病院が実施した生体腎移植をめぐる臓器売買事件で、手術を担当した医師が臓器提供者(ドナー)の女性(59)と手術前に会ったのは、検査時の1回だけだったことが2日、分かった。同病院には臓器提供の是非を検討する倫理委員会がなかったことも判明。県警は、手術前のチェック体制に不備がなかったか、慎重に捜査を進めている。
手術を担当したのは院長代行の万波誠・泌尿器科部長(65)。
県警によると、女性は手術の約1カ月前の昨年8月、山下鈴夫容疑者(59)=臓器移植法違反容疑で逮捕=と、仲介をした松下知子容疑者(59)=同=の2人とともに同病院の万波部長を訪問。「わたしの腎臓をお兄さん(山下容疑者)にあげてください」などと話し、検査で血液型が一致するなどドナーとして適することを確認した。
その後は万波部長と会うことがないまま、手術の数日前に入院。昨年9月28日に摘出、移植手術が行われた。「インフォームドコンセント」(医者の十分な説明と患者の同意)も文書で行われなかったという。
生体腎移植手術は、患者が自らドナーを探し、手術を申し込むのが一般的で、今回もこのケース。病院側も「自己申告を信じるしかない」として、女性の身元を確認していなかった。
日本移植学会の倫理指針では、親族以外から臓器提供を受ける場合、各医療機関が独自に倫理委員会を設け、慎重に作業するように求めている。しかし病院関係者によると、「病院は平成16年4月に開設されたばかりで、ドナーとレシピエント(移植を受ける患者)を調査する倫理委員会は設立されていない」という。
万波部長は、600回以上の腎移植を手がけているが、「ドナーの病歴などは調べるが、基本的に自己申告。戸籍謄本などでドナーを確認したことは一度もない」と説明。「どこの病院もそんなチェック体制はない」と話している。
女性は術後に胆石が見つかり手術。現在は別の病院に入院中。
県警は2日午後、山下、松下両容疑者を送検する方針。
(産経新聞) - 10月2日
生体移植に依存する臓器移植の現状を打破し、国内で脳死移植を受けられる機会を増やそうと、今の臓器移植法を改正して臓器提供の条件を緩和する動きがある。改正法案は国会に提出されており、移植推進派は早期成立をめざしている。
現行法は、脳死臓器提供は本人の書面による同意と家族の承諾が必要。15歳以上という年齢制限もある。
自民・公明の有志議員による改正案は、「脳死は人の死」を原則に、本人の意思が不明でも家族が同意すれば脳死判定・臓器提供を可能とする「家族同意案」と、本人の意思表示を必要とした上で、年齢制限を15歳以上から12歳以上に緩めた「年齢緩和案」の二つ。
ただ、今の臨時国会は改正教育基本法など重要法案が目白押しで、両案とも審議入りのメドすら立っていない状況。また臓器移植を増やすと期待される家族同意案には慎重な意見も根強くあり今後の審議は不透明だ。推進派は「せめて審議だけでもしないと、次の通常国会でも後回しになる」と焦燥感を強めている。
(2006年10月2日 読売新聞)
担当医、「親族」鵜呑み…ルールの確立急務
愛媛県の宇和島徳洲会病院で行われた腎移植を巡る臓器売買事件で、臓器提供者(ドナー)の本人確認が徹底されていない現状が明らかになった。臓器移植法は売買を禁じているが、生体間の移植そのものは法的規制の対象になっていない。
日本では脳死や心停止後の臓器提供が不足し、腎臓や肝臓では生体からの移植が主流だけに、親族、非親族にかかわらず、法規制を含めたルールの確立が急務だ。(大阪科学部 秦重信、科学部 冨浪俊一)
脳死移植や心停止後の臓器移植は、臓器移植法で脳死判定の基準や実施の手順が定められている。臓器の斡旋(あっせん)事業には国の許可が必要で、現在は日本臓器移植ネットワークだけが認められている。提供臓器は、親族優先ではなく、居住地域や医学的適合性、待機期間などに基づき、公平に配分することになっている。
金銭授受が起きないよう、提供者と移植を受けた患者の個人情報は、相互に伝えないという原則もある。
一方、健康な人から臓器を取り出す生体間移植は、売買禁止と無許可の斡旋の禁止を除いて、法律に定めがなく、日本移植学会の倫理指針があるだけだ。
この指針では、提供者を患者の親族に限るよう定めている。親族の範囲は、6親等以内の血族と3親等以内の姻族だ。どうしても親族以外の提供が必要な場合は、病院の倫理委員会で個別に承認を得たうえで、移植学会にも意見を求めることになっている。
しかし今回のケースでは、担当医が、関係者の説明を鵜呑(うの)みにして「親族」として手術(宇和島徳洲会病院の貞島博通院長の会見)。そのうえ同病院には倫理委員会がなかった。
しかも指針は、本人確認の具体的な方法に言及しておらず、医療機関の判断に任されている。
他の病院では、本人確認をどうしているのか。偽装を見破るのは難しいのか。
高原史郎・大阪大泌尿器科教授は「親族かどうかはHLA(白血球型)の検査でわかる。兄弟間では4分の1くらいの割合で型が一致しないことがあるが、その場合は戸籍の提出を求める」と話す。
また、「すでに腎臓移植は保険適用になっており、保険証でも本人確認はできる」と指摘。宇和島徳洲会病院のチェック体制に疑問を投げかける。
腎移植の場合、患者は人工透析で命をつなぐことができ、緊急性は低い。今回のケースで、そうした説明や話し合いが、どれだけ行われたのだろうか。
たとえ本当の親族からの臓器提供でも、陰で提供の強制や金銭授受があれば、大きな問題だ。そうしたことがないか、話し合いの過程で見極める必要がある。親族というだけで倫理審査の対象から外している学会の指針は、そのままでよいのか再検討が求められる。学会側も「調査委員会を設け事実関係を詳しく調べる」(田中紘一理事長)と、真相究明に乗り出す。
事件の底流には、生体移植の審査が甘い現状があるとし、厳しいルールを求める声もある。米本昌平・科学技術文明研究所長は「死体からの腎提供が不足し、臓器売買の危険性は世界的に指摘されていたが、国内では非先進国への移植ツアーの是非を含めてあまり議論されなかった」と指摘。その上で「臓器移植法改正で生体移植に規制をかけ、臓器提供できる人の範囲や自発性の担保など、ルールをきちんと定めるべきだ」と話している。
背景に腎臓不足
なぜ臓器売買までして移植を行うのか。背景には深刻な臓器不足がある。
脳死移植・心停止後移植の仲介を行う日本臓器移植ネットワークのまとめでは、8月31日現在、腎臓の移植を希望する登録患者は1万1564人。一方、移植は、日本移植学会によると、1983年以降、毎年500件以上行われている。最新統計の05年は834件だった。
しかし、その内訳は、生体移植が大半。94年から生体移植は増加傾向にあり、04年は約8割にあたる727件だった。生体移植のほとんどが親子間で、最近は夫婦間も増えている。
一方で、89年には年間261件もあった心停止後移植は97年の臓器移植法施行以降、減少傾向にあり、02年には112件に落ち込んだ。移植専門医の間では「脳死でなければ提供できないと誤解する病院関係者や家族がいた」との見方があった。脳死移植も年間4~16件とごくわずかだ。
糖尿病患者の増加で合併症の腎症を患い、慢性腎不全に陥って人工透析を行う患者は04年末で約24万人。これらの患者は腎臓移植を受けないと完治しない。
移植希望者数と臓器提供数には大きな差があり、移植ネットに登録してもなかなか順番が回ってこないのが実情だ。仮に親族が臓器提供を承諾しても、医学的理由で移植が実現しない場合もある。
腎移植
親、子供、配偶者などが臓器提供する生体移植、心停止後に提供する移植、脳死者からの脳死移植がある。腎臓は保存できる期間が長く、心停止後の摘出でも移植に使える。臓器移植法施行以前から角膜・腎臓移植法で心停止後の提供が認められていた。
(2006年10月2日 読売新聞)
愛媛県警が強制捜査に踏み切った1日は、臓器移植普及推進月間の初日。東京都内では、臓器移植推進を求める患者団体が臓器移植法の改正を訴えるシンポジウムを開いており、終了後の記者会見では参加者が事件についても言及した。
臓器移植患者団体連絡会の大久保通方・代表幹事は、「臓器の売買はあってはならないし、あったとしたら大変なこと」と強調。そのうえで「国内の提供者が少ない現状では、臓器を買うようなことまで起きてしまうのだろう」と話した。
臓器移植法は、脳死下の臓器移植について、提供者本人の書面での意思表明などを条件としており、1997年以来、提供実現は47例にとどまっている。
腎移植の現状をシンポジウムで報告した東邦大医学部腎センターの相川厚教授も、「腎移植の希望者は15年から16年待っており、状態が悪くなってから移植を受ける人や、提供を待つ間に亡くなる患者も多い」と指摘。「売買が許されないのは大前提だが、死後の提供を難しくしている法制度が事件の背景にあるのではないか」と述べた。
この日、全国で行われた臓器移植推進の街頭キャンペーンには計約1万2000人が参加。全国腎臓病協議会の栗原紘隆副会長は、「移植への国民の理解がまだ足りないのに、事件で『(臓器の)売買ができるのか』という誤解が広がっては困る」と懸念していた。
厚生労働省の原口真・臓器移植対策室長は同日午後、事件を知り、シンポジウム会場から厚労省へ。「倫理的に許容される範囲で行わなければならない臓器移植で、法律違反があったことは、移植自体の信頼が損なわれかねない」と話した。
(2006年10月2日 読売新聞)
愛媛県宇和島市の「宇和島徳洲会病院」で行われた生体腎移植を巡る臓器売買事件で、執刀した泌尿器科部長の万波(まんなみ)誠医師(65)は、国内で移植を行う医師のほとんどが所属する日本移植学会に所属していなかったことが2日、わかった。
万波医師は、提供者の本人確認の手段について「保険証を見ること以外、今までやったことがない」と証言した。臓器提供者(ドナー)の範囲や移植までの手順は、日本移植学会の倫理指針で定めている。
臓器提供者の本人確認や親族関係の確認の具体的な方法は、学会の倫理指針にも定めがなく、チェックのやり方は病院側の判断に委ねられている。学会へ所属するかどうかは任意だが、非会員とわかったことで、学会の調査や対策にも、大きな課題が浮上した。
万波医師は、腎移植では全国有数の実施件数を上げ、腎移植の世界では名の通った存在だ。山口大を卒業した1970年から市立宇和島病院に勤務し、腎移植は77年から2004年に退職するまでに545件手がけた。
00年は36件で全国の施設で2番目、01年も35件で全国で3番目に多かった。04年4月にオープンした宇和島徳洲会病院に移った後も実施件数は82件にのぼった。同病院での生体腎移植は、すべて万波医師が担当していた。同医師は「(本人確認は)保険証を使うが、本人の言葉を信じるしかない。(それ以外の確認は)今までやったことがない」と読売新聞の取材に話した。
今回、逮捕された患者で水産会社役員山下鈴夫容疑者(59)(宇和島市中沢町)に移植した腎臓の提供者についても、松山市内の貸しビル業の女性(59)を、病院側は「山下容疑者の義妹」と思い込んでいたという。
田中紘一・学会理事長は「学会に所属していない医師に倫理指針を適用するかは想定外で、強制力はないことになる。病院に倫理委員会がないのは、医療スタンスとして問題」と話している。
(2006年10月2日 読売新聞)
愛媛県宇和島市の「宇和島徳洲会病院」で昨年9月に行われた生体腎移植にからむ臓器売買事件で、水産会社役員山下鈴夫(59)と内縁の妻で同社社長松下知子(59)の両容疑者が、ドナー(臓器提供者)として不適合だった松下容疑者の代わりに、山下容疑者の親族の男性を病院に連れていったことが2日、わかった。
この男性は移植を拒否したため、松下容疑者が知人女性を妹と偽り、ドナーとして執刀医に紹介していた。県警は、松下容疑者が切羽詰まって、女性に現金などを渡し、ドナーになってもらおうとしたとみて、追及する。
調べや病院の説明によると、山下容疑者は2、3年前から糖尿病の症状が悪化し、移植手術でしか完治しない状態になった。松下容疑者がドナーになることを決意し、昨年4月に2人で執刀医で泌尿器科部長の万波(まんなみ)誠医師(65)を訪れたが、松下容疑者の血液型は不適合だった。
その後、両容疑者が移植に適合しやすい山下容疑者の親族男性をドナー候補として病院に連れていき、万波医師に会わせたが、この男性は乗り気でなく、最終的には拒否したという。
このため、両容疑者は、昨年8月ごろから、ドナーになった女性に、松下容疑者が「血液型は何ですか」などと尋ねたうえで、「うちの人をどうしても助けたい。協力してほしい」などと再三、頼み込んだという。
同じころ、万波医師に対し、「妹では駄目ですか」と言い、女性を検査してもらい、移植に適合することがわかったという。
県警は両容疑者を2日午後、臓器移植法違反容疑で送検する。
(2006年10月2日 読売新聞)